私はずっと小欄を任せてもらっていますが、正直どのような経緯でそうなったのかまるで覚えていません。 右下に出ている発行回数から計算すると13年くらい前のことになるわけですが、とくに綿密な打ち合わせをしたような記憶もないのです。
そもそも習作のようなものを一度限り提出すればよいのだろう・・そんなつもりでした。

ただ、創刊号が出来上がったときに依頼主が満足げにつぶやいた「ええがんなった」(※　石川県の言葉で『うまくいった』というような意味)という言葉から察するに、息の長い読み物にしていこうという構想は初めからあったのかもしれません。

それにしても原稿がいつも締め切りぎりぎりになる私に依頼主は文句ひとつ言うことなく、校正すら入れようとしませんでした。
本当に大丈夫なのか、気になって尋ねても返ってくるのは「ええがんなった」の一言だけ。

聞けば依頼主は肩から吊るした黒いバッグの中に最新号を何部もしのばせ、見ず知らずの人と意気投合すると気前よく手渡していたそうです。
そしてそんなときはきまって小欄を話題にしていたのだとか。

そんな依頼主・・・　6月20日に急逝された裏野実氏に謹んで哀悼の意を表します。
「ええがんなった」
そんな声が今も私の耳の奥に響いています。