昔のラジオ放送は時報の直前にアナウンサーが「時計の針をお合わせください」と一言入れるのが普通でした。そうしたアナウンスは時報前に短いスポットコマーシャルが挿入されるようになってすっかり姿を消しましたが、そうでなかったとしてもデジタル表示の時計が出回った時点で「時計の針」というアナウンスは時代遅れになっていたことでしょう。

時計といえば、私が初めて腕時計を購入したのは街の小さな時計店でした。店内には掛け時計、目覚まし時計、腕時計・・・　とにかく様々な時計があったのですが、私を驚嘆させたのはそのどれもが正確な時刻を示していたことでした。あれほどの数の時計の時刻を管理するのはいくらなんでもたいへんな根気が必要です。
店主は白髪交じりの人の良さそうな親父さんでしたが、時刻に対する真摯な姿勢にはプロの矜持を感じずにはいられませんでした。ちなみにその店主はラジオの時報に合わせて時計をセットするのだと話してくれました。

さて、6月10日は「時の記念日」、毎年、この日になるとそんな時計店の店主の姿と「時計の針をお合わせください」というアナウンサーの文句がぼんやり甦ってきます。それはまるで年とともにルーズになっていく時間感覚に警鐘を鳴らされているようでいたたまれない思いになります。